「こちらが……になります」という語法が正しい理由

飲食店でウェイターが料理をテーブルに置く際に「こちらが……になります」と言うことについて、これの「なります」の部分を捉えて、これが何か別のものになる(変化する)のか、文法的におかしいのではないかと言うのが一時期は流行った。


もちろん文法的には何も問題は無い。主語も述語も省略されておらず完全な文になっている。


そうではなくて、ここで一般的に違和感を持たれるのは「なる」の意味だ。
この「こちらが……になります」の語法への批判がされるときには、なぜか「なる」には「変化する」という意味しか与えられていないけれど、そんな単純な語ではない。
辞書を引くと多くの意味が載っている。
沈黙は金雄弁は銀(ちんもくはきんゆうべんはぎん)の意味 - goo国語辞書


いちばん初めにふさわしい意味が載っているじゃないか。
「なる」は「完成する/実現する」という意味だ。
「こちらが……になります」とは「ここに……が完成しました」ということであって、もう文法的にも意味的にも全く問題が無い。


それでもやっぱり不自然だという人がいる。
彼らが言うには「こちらが……になります」ではなくて「こちらが……でございます」が正しいらしい。

僕は両方とも正しいと思うけど、ウェイターが料理をテーブルに置く時という状況においては「こちらが……になります」の方がよりふさわしい。
絶対にその料理や商品を受け取る人がいるからだ。
僕は店員に「こちらが……でございます」と単に事実だけを告げられても何と返答してよいのか困る。
「こちらが……でございます」から開始される会話はありえない。
中学校で初めて英語を習うときも、その教科書の登場人物が挨拶もせずに突然"This is a ...."から会話を始めることは絶対にない。


直感的な判断ではあるけれど、店員と客は会話をする必要があるので、「これは……です」ではなく「ここに……が完成しました」と言うことで相手がそこへ入り込む隙を作り、会話へと持ち込もうとしているのだと僕は思う。