公務へのWeb2.0の応用と守秘義務

この本の中からWeb2.0という言葉だけが抜き出されて、一人歩きして、日本でもひとつの流行語のような扱いになってしまったことは、大変残念なことだと思う。この本の中、いたるところから著者の情熱を感じるのに。
ちょうどこの本の真ん中あたりに書いてあることだけれど、梅田さんの考えるWeb2.0の本質とは「ネット上の不特定多数の人々(や企業)を、受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者と認めて積極的に巻き込んでいくための技術やサービス開発姿勢」だそうだ。これはGoogleとかアマゾンみたいなITベンチャーだけが使うべきものじゃない。もっと積極的に使うべきは行政とか公共の仕事をする人たちや団体じゃないか。
公務こそまさに不特定多数の人々を巻き込まなきゃいけない。公務員はサービスの提供者で、市民は享受者であって、それが区別されているというのは、どうもおかしい。だって公務員も市民のひとりなんだし、市民が行政サービスを計画しても全くおかしくない。
行政が市民を受動的なサービス享受者ではなく、能動的な表現者と認めて、積極的に巻き込んでいく行政サービスの開発姿勢。これを文字通り実行しているのが長野県にある下条村だ(自立をめざす村-長野県下條村の挑戦 - だいずせんせいの持続性学入門)。カッコの中のリンク先を読んでもらえれば分かると思うけれど、下条村の状況はこの本に書かれているインターネットの現状にそっくりだ。多くの人がブログで発言したりオープンソースのソフト開発に参加したりするように、下条村の住民は役場に要望を直接伝え、ときに土木工事に参加する。
もっと多くの地方公共団体が、あるいは国がこれをまねして発展させるべきだと思うけれども、オープンソースソフトの開発のように、行政と市民との協同には行政と市民との情報の共有が欠かせない。公務員には守秘義務が法律で定められているから、情報の共有はなかなかできないと思うかもしれないけど、そんなことはない。「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」というのが守秘義務についての具体的な条文だけど、ここで「秘密」を辞書で引いてみる。「隠して人に知らせないこと。公開しないこと。また、その事柄。」とある。情報を共有するためには、最初から秘密にせず公開すればいいだけだ。公開すればつまり「職務上知ることのできた"秘密"」ではないから守秘義務も負わない。
自治体の財政が苦しいと言われるけれども、その解決策は明らかに見えているじゃないか。